IIPE(国際平和教育研究集会)2012報告
淺川 和也(東海学園大学)
概要
海外から11カ国そして、総勢35人あまりの10日間におよぶ会合を国立女性教育会館において実施した。新英語教育研究会のネットワークがあればこそである。例年は60名規模で、助成をもとにアフリカやアジア、南米からも多くの参加者を得て実施される場合もあったが、今回は、なかなかままなならず、30名規模での実施であった。しかし幸い、互いに知り合うことが十分でき、日本からの参加者も15名あった。
IIPE: International Institute on Peace Educationは、およそ30年前にコロンビア大学のベティ・リアドンさんらによってはじめられた。諸事情から事務局はかつてのコロンビア大学平和教育センターから、現在はナショナル・ピース・アカデミーとなっている。日本では、東京YMCAにおいて1992年に、その後ICUにおいて1996年にひらかれた。それらをとおして今回も参加されていたキップ・ケイツさんと知己となった。また、今回は別のイベントの責任があり、参加されていなかったが東京大会の時に会場提供をいただいた清泉女子大学のケティ・松井さんや、ロニー・アレキサンダー(神戸大学)さんもこれまでのIIPEでご一緒したことがある。
じっくり英語で
英語で運営されるので、なかなか敷居が高いが、通例の「学会」や大会とは異なり、参加者によってつくる集まりである。全体会や分科会(ワークショップ)、ふりかえりからなっているが、さまざまなインフォーマルな場での交流によって、ともに打ちとけあうことができる。参加者は、国際平和教育研究集会とあるが、研究者ばかりでなく、教員やNGOの職員も参加し幅がひろい。新英研からは、赤松(山口)、武市(徳島)、野村(北海道)、菊地恵子(埼玉)さんが参加された。また公開行事とした15日には奈良(東京)さんが参加した。
よりひろい平和教育への動き
日本での平和教育はヒロシマ・ナガサキをはじめとして戦争の悲惨さを伝えようとすることが主であったが、世界では、さまざまである。今年の特徴は、平和教育をよりひろくとらえるところにあったといえる。農や食とのかかわり、精神性とのかかわりのことが共有されたと思われる。ベティリアドンさんは、コンプリヘンシブ(包括的な)平和教育を提唱した。その根幹は、戦争の根源は家父長制にあり、ジェンダー問題は中核であるするものである。また、地球憲章にも注目し、エコロジーは平和の基盤であるとしている。今回は、よりひろく、平和教育へのホリスティックな接近がなされたように思う。
菊地恵子さんは、今回の全体会やワークショップのなかで、生物多様性への視点を指摘した。シードセイバーや反GMOなどの運動では、現代の農業は多国籍企業によって操作され、ローカルでの生存をおびやかすものとなっていること。また、ピースボートがイスラエルとパレスチナの青年を乗船させ、相互理解をはかったプログラム、紀伊国子どもの村のことなど、素晴らしいが一般に知られていないようだと感想を述べられた。生物多様性、ノンフォーマルな和解の試み、あるいはオルタナティブ教育も平和教育とされていることがわかる。
奈良さんは15日のみの参加であり、その際の武者小路さんの話が印象深かったとのこと。角田さんのノートから「平和教育ではなく、教育全般の責務」を指摘されたこと、また日本の植民地であったアジア諸国に対して、信頼される謝罪をすべきであるとのこと、誰しも平和を願うのだから、それをそとにだすことができるはずだ」など、エッセンスが紹介された。野村さんは現在、教職員組合の専従職員をされていて、その立場から、教育問題に迫られた。また、赤松さんは、世界中から寄せられた平和絵本(iearnの「まちんと」プロジェクトの成果物)を紹介されたり、持参したたくさんの教材によるワークショップもすすめられた。
今後
来年はプエルト・リコで開催される。プエルト・リコは米国の植民地であり、さまざまな矛盾がある。時期は7月初旬と出かけるのになかなか困難だが、より若手の英語教師が参加することで、海外と直接つながることができたらよいと思う。
参考:
平和教育地球キャンペーン( http://gcpej.jimdo.com/ )
注:本稿は「新英語教育」誌(2012年11月号)に掲載されたIIPE(国際平和教育研究集会)開催レポートがもとになっている。