2003年 2002年 2001年

 

2001年・新英語教育研究会・韓国の旅

富士国際旅行社

8月  8日 釜山到着後、出発地別にホテルへ        

8月  9日 午前:釜山市内 13:00 釜山発  慶州着  14:00

8月10日 慶州発・温陽へ   温陽着11:30 柳寛順の故郷訪問=生家、記念館など

8月11日 温陽発   8:30  天安着   9:30   11:30    独立記念館見学

    広州着   13:30 15:30    元「慰安婦」が共同生活するナヌムの家訪問        

    ソウル着    16:30

8月12日 ソウル市内 景福宮、安重根記念館、タプゴル公園など

8月13日 ソウル発

 

2002年 韓国旅行

日 程:2002年8月6日から13日

8月6日(火) 成田から空路釜山へ  

8月7日(水) ホテル→釜山市内観光→昼食→慶州観光朝昼夕食

8月8日(木) ホテル→大田 英語教師との交流 ホームステイ

8月9日(金) ホームステイ

8月10日(土)(百済の古き都)扶余観光→独立記念館→ナヌムの家

8月11日(日)ソウル市内観光→KETGとの交流

8月12日(月)自由行動(平和団体との交流)

8月13日(火)ホテル→インチョン空港→日本へ

費用:12.5万円

 

2003年 新英研「韓国・平和と交流の旅」

8月7日(木)~14日(木)8日間

8月7日(木) ソウルへ

8月8日(金) ナヌムの家→昼食→市内観光(徳寿宮、西大門刑務所など)

8月9日(土) ホテル→独立記念館→大田(ホームステイ) 

8月10日(日)学校訪問、英語教師と交流( ホームステイ)

8月11日(月)大田→光州(楽安巴城、松光寺など)

8月12日(火)光州見学(光州事件ゆかりの地)

8月13日(水)ホテル→釜山→KETG交流(予定)

8月14日(木)日本へ

費用:12万8千円

旅行手配取扱:(株)ジャコアンドワールド 

 

2017年 新英研「釜山との交流」

 

PETG(釜山英語教師の会)訪問の報告および考察

 

201711月             新英語教育研究会国際部 奈良 勝行

 

(標記の訪問・授業見学とPETGとの懇談の結果と英語教育の考察について述べたい)

 

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「報告」

 

  1. 目的:韓国(釜山市)の英語教育事情を授業見学と教師との懇談を通じて実地調査するため

  2. 期日: 201711月3日(金)

  3. 内容:中学の英語の授業見学とPETGの教師との懇談

  4. 参加者:富崎千賀、平野正樹、福井良子、奈良勝行

  5. 学校名と教師:安楽中学校、Kim Minji先生その他

 

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  1. 11451230 釜山市 安楽中学訪問・授業見学(16組 26人)

    • 英語の授業は1年生は週3回、2・3年生は能力別クラス編成で週4回の授業。   

      見学した授業内容:

      Career room(PC room)でアメリカのカリフォルニア州のある中学の生徒と英文メールの交換。

      まず、ミンジさんが大型のスクリーンに”Today’s Objectives”を示す。

 

  1. Students will be able to write about what they like, what they are good at and what they want to be in the future.

  2. Students will be able to write letters to American friends.

 

また、ミンジ先生がモデル英文をスクリーンに示す。生徒は、アメリカから送られてきたメールに対して返事を書く作業を開始。

 

  1. 生徒が相手校の生徒のメールに対して自分のレスポンスをPC画面に打ち出す(英文のタイピングが非常に上手!))

  2. 辞書を使わず、分からない単熟語は検索サーチを用いて調べる。

  3. 担任、学校と契約している民間英語サポート機関Storypal派遣の韓国人とネイティブ・スピーカー(アフリカ・ニジェール出身の男性)、補助の英語教師の計4人が生徒の机を回って指導する。特に“遅れ気味”の生徒には隣につきっきりになって支援。

  4. 英語のレベルは日本の中3程度。熟語(be looking forward to ~ingの使い方、接続詞の前のコンマや文末のピリオドがないといった文法の間違いが見られるものの、ほとんどの生徒が自分の得意なことや将来なりたいものなどを自由に書いていた

  5. 30分くらいで書き終わった生徒はPCでアニメやゲームなどを楽しむ。

  6. 45分経って終了のベル。

 

   先生のモデル英文をマネする生徒はおらず、皆独自の英文を書く。

 

 

 

  1. (中央)ミンジ・キムさん(

  2. (左)Story palの女性
  3. (右)ニジェール出身のstory palの男性

 

 

From G……..,

 

                        To A……

 

Hi, what’s your favorite holiday? I don’t really like holidays. If I had to choose I would choose Christmas.  On Christmas I like to spend time with my family. We like to open gifts and eat lots of food………

 

                             

 

  1. 返信メール)                                          

 

From A……..

 

                          To G……….

 

Hello. Thank you for your reply. My name is A………. I graduated from Anmain Elementary School.  I go to Anrak Middle School, and I am in the first year now. I am interested in listen music. My favorite movie is Muster …….   

 

                                      (いずれも原文のまま)

 

授業中に私たちが生徒に質問。

 

Do you like English?  Do you like this type of class?

  生徒は一様に “Yes, I do.  I like it very much.”

 

  ミンジ先生に質問。

 Do you think this kind of classwork has helped kids improve their English ?

    “Yes, I do. They seem to like this class, since it motivates them to learn English more.      

 

  後刻、教師が出来上がった各英文をチェックして相手校に送信するという。

 

 翌週は、相手校からのレスポンス・メールを生徒に提示してまたメールを書かせる。

 

目標は「生徒のwriting abilityの向上」。

 

 なお、検定テキストは、Middle School English (1)で、他の2時間で活用する。

 

 

 

  1. 12451345 ランチと校舎内見学

    今年完成したばかりの約200席ある食堂(写真)で生徒が2学年ごとに交代でランチを取る。

    (昨年までは、日本と同じように各教室へ生徒が配膳していたが、今年からカフェテリアで一斉に昼食する。教職員は食堂の一角で食べる。なぜか男性職員は12人。圧倒的に女性が多い(なぜ?)。給食はお代わり自由(が、とても辛いので、私たちの中でそうした者はいなかった…)

    ミンジ先生に質問: 

      Why did you change the lunch providing method?

    (答え)Because the conventional way took time for kids to eat. The latest type saves time and is more hygienic.

 

  その後、駆け足で校舎内をめぐる。途中で私たちの何人かが生徒に囲まれて質問攻めにあう。

 

 図書館にて。日本語のうまい生徒に出会う。「Watashi-wa-OOO-to moushimasu. Do-zo Yoroshiku.” とあいさつ。

 

  早速、質問。”Doko-de-nihongo-wo-narattano?”  (Ans.) “Dokugaku-desu.” 

 

 (「独学」ができるとは相当なもの。ちなみに「英語はどうなの?」とは質問せず。)

 

昨年からこの学校は欧米のように生徒は授業ごとに教室移動する制度に。たとえば英語はEnglish zone(写真)の教室やCareer roomで授業を行う。

 

 

質問:「移動に時間がかかるし、それに混合クラスで授業を抜け出す生徒はいませんか?」

 答え:「学校中を探して、いない場合は警察に連絡します」。 

 

  1. 14:15~ 15:15  Busan English Library(釜山英語図書館) (韓国にあるいくつかある「英語村」の一つに設置されている)

    20071月創立の韓国で最初の公立英語図書館。釜山支庁教育部が運営する非営利の施設で、市民や在住の外国人に開放。本の貸出しの他に読み聞かせ、ネイティブによる英語の授業も行う(もちろん無料)。本や関連資料は利用者の英語レベルに応じて貸し出したり、読ませたりする。

    入館する前にドアのところにこんな表示が: “Anytime, anytime, Enjoy Library eBooks!” 

     収蔵書籍は約53,000部。資料(DVDを含む)はおよそ7,000部。開館時間は午前9時から午後9時まで(ただし、生徒・児童は午後6時まで)。

    スタッフは、館長、学芸員、英語教師、ネイティブなど16人。ちなみに案内してくれた女性教師は市内の公立学校に所属し、希望してここに異動したという。

    静かな環境、閲覧室のきれいな机・いす、英語レベルに合わせて分類された本、成人用の専門書、DVD,CDなどが目についた。また一つの部屋ではネイティブが学校帰りの小学生に英語のレッスン中。

 

レギュラー・プログラムの他に特別プログラムがあり、小学生向けにReading Camp, 中高生向けにRead and Speak, Essay Writingの講座もあり、            (BELの入口の前)

 

オンライン申し込みですぐいっぱいになってしまうほど人気がある。

 

見学が終わって館長と案内をしてくれたスタッフと懇談。

 

質問:What made you start his library?

 

  (Ans.) About a decade ago, there was a momentum to let students equipped with higher English capability to survive the globalizing society among citizens and officers of the City Hall. We those concerned gathered and discussed challenges and then established this facility.

 

質問:Korean Students’ English capability is higher than that of ours. In Japan English education for elementary school started in 1997 for 3rd graders. Our     (英語図書館の内部)

 

education ministry plans to initiate it for the 3rd graders next year. Do you think this library has contributed to heightening kids’ English level?

 

(Ans.)  Yes, I think so. We’re proud to have contributed to it a great deal.

 

  1. 18001910 PETGメンバーと韓国定食のディナー (自己紹介)

 

  1. 19202150 「英語教育懇談会 Busanjin High School 高校で)

    PETG側は中学校・高校教師7人と市教委のsupervisor(指導主事?)と私たち4人が参加。初めにPETG側がプレゼン。

 

(1) PETG側のプレゼン①

 

過去

 

1988年 KETG発足。

 

1990年 PETG発足

 

      以後2015年まで15年間、能力テスト、リーディング教材と指導(訳読指導)、創作的なライティングを行う。一方で2004年、2007年、2010年、2011年、2016年に新英研と交流(相互の大会に代表派遣)。また新英研九州支部とも2007年・2008年に交流。

 

    2016年 Differentiated Instruction(多変化授業)およびProcess-Oriented Writing(過程重視のライティング)を開始。

 

現在

 

    PETG定例会議:隔週の月曜の午後7時にこの高校に会員が集まる。

 

     (ちなみに、会員数は156人。定例会には810人が参加する)

 

*指導方法の学習、指導計画の発案、本読みとプレゼン、学校で現在直面している問題の討議、学級経営、ワークショップとセミナー

 

*今年の学習課題:記述式のエッセータイプのテスト   

 

 

 

未来 

 

    DIを昨年始めたばかりなので、将来は“不明”。

 

   

 

PETG側のプレゼン②(金芳年)-----(省略)

 

 

 

 (2) 新英研側のプレゼン (奈良)――(省略)

 (3) JEARNのプレゼン(福井)―――(省略)

 

     (PETGのプレゼン)                     

 

 (4)質疑応答(Q & A)と意見交換                  

 

   Q1. ライティングは学力向上に役立つが、教師は英文のチェックにかなりの時間を要し、負担になる。どうしているか?

 

   A:  生徒同士の添削(peer checking)をやらせ、その後教師がチェックする。細かいミスは指摘せず、英文の論理・構成に注意する。たくさん英文を書かせることによって力をつけさせる。

 

  Q2. 小学校英語教育は3年生から導入しているが、学力は向上しているか?    

 

  A.ここ78年、確かに向上していると実感している。

 

  Q3.デメリットはないのか?

 

  A. 早期英語教育を望む親は多い、英語幼稚園に通わせる親もいる。その場合、学費が月に600ドルもかかってしまう。教育費の大きな負担が問題になっている。また、小学校3年から教えるので、中学校に入って英語を学ぶ意欲がなく授業に集中させるが大変だという指摘もある。     

 

  Q4.以前は保護者の早期英語教育が過熱し、放課後民間の英語塾に子どもを通わせたり、国立の大学へ進学させるために予備校がはやったが、今もそのような現象は続いているか?

 

  A.現在も続いていて、親の貧富格差が子どもの学力格差に影響している面はある。しかし、近年、見直されてきている。

 

  Q5.高校への入学試験はあるのか?

 

  A. 入学試験はない。ほどんどの生徒は中学の成績に応じて一般の高校へ進学する。特にできる子(high-achiever)は外国語専門高校などに進学する。できない子(underachiever)は職業高校へ行く。

 

  Q6.日本の中学教師は毎日夜遅くまで仕事し、土日もクラブ顧問として部活の見守りに行き、さらに夏・冬の長期休業でも原則として出勤するという状況だ。中学教師の6割が「過労死」寸前の勤務状況である。韓国はどうか?

 

   A.日本の教師の勤務状況は“クレージー”つまり異常というほかはない。さっきこの高校のチャイムが鳴ったように、放課後午後9時まで校内で補習授業を行うことはある。それも交代に指導で当たっている。部活の指導については外部からインストラクターを呼んで、教師が遅くまで付き合うことはない。ましてや土日や長期休暇に学校に出勤することはない。補習した場合は残業手当がきちんと出される。

 

(韓国→日本)に質問。「日本ではどうか?」

 

   (答)日本では、法律により残業手当は全く出ない。“サ-ビス残業”のようなものだ。働いた日の分は他の授業の日に休むという「振替日」という措置で補うことになっているが、あまりとれていない。

 

Q7. 韓国では授業中に寝ている生徒がいる場合、どのように指導しているか?

 

   A.寝てしまう生徒については2通りあって、授業が分かっていてつまらないから寝る場合と、分からなくて寝る場合がある。無理に起こしてトラブルになるのを面倒がって起こさない教師もいる。

 

  Q8.韓国では授業についていけない「ドロップアウト」の生徒にはどう指導するのか?

 

   A.義務教育なので指導はする。それで改善する生徒もおり、卒業まで持ちこたえさせる。高校の場合も指導はするが、それでもダメな生徒は途中退学してしまう。退学してしまった生徒は進学や就職が非常に難しくなる。

 

Q9.校内暴力はどうか?

 

   A.教師への暴力が発生した場合は、緊急に職員会議で話し合い、警察に連絡する。

 

    また、家庭内の暴力を生徒から聞いた場合、学校は警察に通報することになっている。

 

  Q10.韓国ではいじめの問題はどうか?

 

   A.深刻な問題が発生することがある。いじめる生徒には厳しく対処している。

 

  Q11. DI(多変化授業)の具体的な指導として、昨年からwritingの指導に力を入れている。効果は上がっているか?

 

   A.ライティングでは生徒は自己の考えを表現する。書いた後、達成感(a sense of accomplishment)を持てる。生徒同士が協力的になる。教師側も個々の生徒についてよりよく知るようになれる。また同僚教師とも意思疎通がよくできる。総合的な成果はまだ評価していない、来年以降になりそう。数年かかる見通しだ。

 

  Q12. PETGは昨年、市教委から”The Best (teachers’) Group Award”を受賞したと聞く。すばらしい! おめでとう! どんな賞なのか?

 

  1. 釜山市内の全教科の教師グループの中から選ばれた。これまでの実績が評価されたものと思う。今後も精進していきたい。                   

 

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2017年PETGプロジェクト:多変化授業と学習に関連した英語の試験

 

 (PETGが作成した資料。2017113日に配布)

 

  1. 背景:釜山教育事務所から示されたテストについてのガイドライン

    1. 高校の国語、英語、数学、社会学の筆記試験の30%以上を作文記述式にする

    2. 授業の40%以上を過程重視の内容にする

  2. PETGの研究の目的

    1. 生徒の関心、学習方法、学習準備度を中心にした多変化授業への具体化を図る

    2. 授業の過程重視の実施と作文記述式のテストを組み合わせる

  3. 研究内容と活動

    1. 多変化指導・学習と記述式テストの関連

 

 - 指導プランと教材の討議

 

    1. テスト問題と得点基準の開発

       - テスト問題と基準の見直し

      - 現実の授業とテストへ適用できるように改訂

    2. テストについてのワークショップ

 

  -月2回の例会、市内の英語教師とのワークショップ、特別講師(国立ソウル大学の教授を招いて講演会 

 

  1. 実際の活動

    1. 学期前:会員間で指導案・テスト案の検討

    2. 学期中:授業とテスト実施、テスト問題の有効性の検討

    3. 学期後:授業とテストの反省、次年度のプラン作り

  2. 予想される結果

    会員は、将来以下のことができるようにする

    1. 多変化授業を通じての授業とテストを組み合わせた具体的指導案の策定

    2. 有効なテスト問題と基準作り

    3. 同僚と指導案、テストつくりの経験を共有

 

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「考察」

  多変化授業(DI: Differentiated Instruction)とは   

 

はじめに:

 このDifferentiated Instruction(以下DIと略す)はアメリカVirginia University教育学部教授Ms. Carol Ann Tomlinsonがおよそ20年間の学校教育の実践を通して構築した理論で、現在、同大学で“Differentiated Instruction”(彼女の著書の邦訳は「一人ひとりを生かす教え方」)として講座を教えている。 この理論は12か国語に翻訳されており、現在、この著書を朝鮮語に翻訳中のKETG常任顧問ホン・ワンキは、DIを「多変化授業」と訳している。

 

この理論の本質は、一人ひとりの生徒の潜在能力を最大限に生かすために、その生徒のニーズに合わせて教え方を工夫・開発することである。DI理論では、生徒の学習準備度や関心によって学ぶ内容や方法が「多様に変化する」として、教師たちはこの変化に注目しながら指導すべきと説く。このDIはいわゆる個別の生徒を重点的に指導するという「個人別指導」や。学習の到達程度に応じて分ける「習熟度別授業」とは異なる。

 

    1. 背景 

 

韓国は20002010年代の新自由主義思想が教育界に及び、韓国のmiddle school, high schoolでは平常の授業が“受験・入試従属型”であり、教師たちは成績を媒介にして生徒たちを序列化する傾向にある。有名高校・大学に何名進学させたかで学校の名声が決まる。学校は生徒たちを“できる子(high achiever)、”“できない子(under achiever)”に弁別する原理(principle of discrimination)に支配される。日本の例のglobalizing societyに貢献するグローバル人材を育成する教育政策(10%のelite, 90%のnon-eliteに選別)と似ている。世界的に貧富の格差が広がる中で保護者の社会・経済的位相(socio-economic status)により学力格差も広がり、学閥によって社会的階級が決まってくる――誇張的に表現すれば韓国はすでに身分制社会に逆戻りしているかのようである。こうした背景の中、近年これを改革しようという機運が高まってきた。

 

 

 

    1. DI理論の概要

 

DI理論では、生徒たちが「多様である(diversified)」であることを認めて尊重しあい、教室という空間で生徒たちが一緒に交わりながら、ときにはグループ学習(flexible grouping)し、また相互に援助し合いながらクラス全体の学力を高めることを目標とする。Tomlinsonが指摘するように、「生徒は誰でも成功的に学ぶことができるという潜在力をもっていること」を信じ、教師が実践することが大切である。カナダのオンタリオ州教育部が実施している”Learning For All (みんなのための学習)に同じ信念が具現化されている(ちなみに、参加した2017年のKETGの夏季研修会のスローガンがズバリ”Learning For All”であった)。言葉を替えれば、個々の生徒のDiversity (多様性)の“違い”を認めあいそれを「力」に変えて生徒全体の底上げを図る、ことである(大会の記念講演者・平田オリザ氏の主張に共通するところがある、と言える)。

 

 DIは、生徒の学習準備度(learning readiness)に応じ、関心(interests)および学習履歴(learning profile)に応じて、「内容(学ぶこと)content」、「過程(いかに学ぶか)process」、「成果物(学んだことをいかに表すか)product」、「学習環境(教室の状況)learning environment」を変化させることである。DIは、フィンランド、カナダのオンタリオ州、イギリス、アメリカにおける教育改革に成功した制度や内容について積極的にアプローチしている。

 

しかし、DIはKETGのほとんどの教師にとって実践は難しいので、DIの支える信念に注目している。フィンランドの教育改革の「多様性は正常であり価値がある」「生徒はすべて成功する」「公平は同一ではない」「人生はそれぞれ違っていて、巨大な価値がある」などである。でも現実には、一部のまたは多くの生徒がいろいろな口実で教室の実践から排除されたり、諦めさせられたりしている。

 

世界的に貧富格差が広がり、教育機会の不平等が大きくなっている。教育における公平性が大問題になっている。OECDの教育信念によれば、個人のジェンダー、社会的・経済的地位、人種的出自は教育的可能性を達成するのに障害となってはならない、としている。しかし、教育的な差別は増している。教室の指導においては多くの生徒が“忘れられた(forgotten)”,つまり放置されたままである。そこで「生徒を知ること」はDIの実践において最初で不可欠の課題である。DIでは、生来の潜在力を最大限生かすために個々の生徒のニーズや好みに適合した指導や学習の方法を積極的に開発するのが根幹である。

 

多元化社会で多様性や共感を強調する「異質な集団で交流」することが教室の中で重要である。DIの特徴は柔軟なグループ授業(flexible grouping, 選択(choice), 敏感に反応する課題 (responsive task), 責任の共有(shared responsibility)である。

 

  表1は、伝統的な教室と一人ひとりを生かす教室の比較を一覧にしている。これによりその差が容易に理解できよう。

 

  1. 教育の公平性 (Equity in education)

    * 公正(fairness)としての公平性(equity)は個人的かつ社会的状況――例、性差、社会的・経済的地位または人種的出自――が生徒の教育的潜在力を引き出すのに障害となってはならない。

    * 公平な教育制度(equitable educational system)は広がる社会的・経済的不平等を是正することができる。

     図2は、「公正(fairness)は同一(sameness)ではない」ことを表す。

     

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    References :

 

  •  The Differentiated Classroom : Carol Ann Tomlinson,  Alexandoria,  Virginia  USA

  •  『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』2017年、C.Aトムリンソン著、山崎敬人・山本隆春・吉田新一郎 訳  北大路書房  

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    ◎今後の展望を次のように考察したい。

 

  1. 教育にかける公的支出の日韓の違い

 

2016年のOECD統計からみると日韓では次のような違いが出ている。

 

 

   日本

  韓国

教育に対する公財政支出のGDP

 4.4%

 6.3%

平均クラスサイズ

 27

 24

教員の法的勤務時間(年間)

1,891時間

1,520時間

年間勤務日数

 201

 190

年間授業授業時間数

 742時間

 656時間

 

 韓国では、次代を担う子どもたちのために日本より多い予算を使い、教職員に対しても過度の負担を避けるように配慮している。世界第3位の経済力を誇る日本は公教育にもっとお金をかけ、子どもたちの豊かな育成、教員の勤務の軽減に努めるべきであることは一目瞭然であろう。

 

  1. 早期英語教育の取組みについて

    小学校の英語教育については、韓国は20年前の1997年に3年生から導入しており、日本は2018年度から34年生に外国語(英語)活動を導入し、56年生には教科化・評価を行う。しかし、韓国では小学校教員全員に年間120時間の十分な研修を課し、指導に当たっている。一方、日本では英語の免許をもつ教員はわずか4%で、わずかな数(全国的に18年度までにわずか1,000人)の「英語教育推進リーダー」に研修を任せて、不十分な体制で臨もうとしている。これでは近い将来いろいろな弊害が予想される。

    韓国では日本より小さいクラスサイズで授業を行い、また各主要都市に英語図書館English Libraryを設置し、生徒が気軽に利用して英語の力をつけるようにしている。これが英語運用能力が日本より高い一因になっていると考える。

 

  1. Differentiated Instruction理論の応用

     韓国も日本と同じように、学歴偏重、“受験・入試従属型”の学校教育を行い、また政府・財界の“グロ-バル人材の育成”の掛け声のもと小学校英語教育を導入した。英語の学力そのものは向上したと言われているが、一方で極端な学校差別・生徒の選別、いじめ・自殺など様々な弊害が発生した。この数年間一定の反省と制度的見直しがされている。

 

 DI理論は、PETGは市教委の指導のもとその一環として昨年から「ライティング」力をつけさせるという目的で導入している。教員は試行錯誤でこの理論の様々に応用し生徒一人ひとりに学力を伸ばそうとしている。

 

 

 

4.KETG Shin-eikenの交流

 

 今回授業見学して、このライティング授業が新英研の「自己表現」と近似していると考えた。生徒の自由かつ創作的発想を大事にしつつ学力をつけさせそうという観点であう。一方で、KETG側は新英研の「平和教育」に注目している。

 

 将来、両者の協働を促進する観点から様々な交流をしていくべきだと考察する。

 

                                      

 

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参加者の感想文 

      1. 平野 正樹(静岡新英研)

 2017113日(金)に釜山にある安楽中学校を訪問した。到着すると体育の授業中だったようで、男子生徒たちがグランドでサッカーをしていた。安楽中学校のKim Minji先生にお会いした後、彼女が担当する中学1年英語の授業を見学した。授業のテーマは、アメリカの友人からのE-mailに対して返事を書くこと。生徒たちはパソコン画面に表示された記入欄にE-mailの返事を書き込んでいた。生徒が打ち込んだ英文を見てみると、文法・語法の誤り(文末にピリオドがないなど)があるものの、内容豊かであった。

 

 中学校の授業や昼休みの生徒の様子をほんの少しだけしか見ることができなかったが、得るものはとても大きかった。

 

 中学校訪問の後、釜山英語図書館を訪問した。ここの英語図書館は韓国で最初に作られたものである。英語図書館には約50000冊の書籍、数多くのCDDVD、視聴覚ブースが用意されていた。レベルごと(中学生以下・高校生・一般など)に色分けされて表示され、読みたいレベルの本がすぐ見つかるようにさまざまな工夫がされていた。見学時、高校生がセミナー室でネイティブ講師からReading の指導を受けていた。英語運用能力の向上に力を入れていることがよく分かる施設であった。

 

 夕方、Busanjin 高校にてPETGメンバーと意見交流をした。韓国の小学校英語教育について尋ねたところ、1997年から始まっており、英語運用能力レベルが高くなっている。しかし、ほとんどの高校生が英語恐怖症に陥っているという。日本では早期英語教育が大変話題となっているが、子どもたちが成長するにつれて英語が嫌いになってしまう危険性もあることを韓国の英語教育から知ることができたことは大きな収穫であった。他にも特別支援が必要な生徒への指導など、質問したいことが多くあったが、限られた短い時間の中では難しかった。

 

 私にとって、今回の中学校や英語図書館への訪問、PETGメンバーとの交流は韓国の英語教育の現状を知る上で大変有意義なものであった。ただ、大変忙しい時期であったため、英語授業見学の時間が少なくなってしまった。さらに、PETGメンバーとの意見交換の時間が十分確保できなかった。その点は少し残念であったが、次回以降の交流に期待したい。

 

 (2) 富崎 千賀 (九州新英研)

 

 新英研九州ブロックとPETGとのワークショップが行われてから7年、交流を再開できる機会になるかも?との思いがあり参加させていただいた。また、この間、数人の韓国とつながりのある生徒を教えてきて、実際の韓国の教育事情は?と考える機会が増えているため、実態を直接聞けることを楽しみにしていた。

 

学校訪問では、中学生は中学生で教師は教師であることを実感した。やんちゃそうな子もいれば、真面目そうな子、参観している私たちが気になって仕方ない子、恥ずかしそうな子、中学生らしい反応がたくさん見えた。使っている英単語の語彙の多さ、将来の夢に高齢化社会を意識した職業を選んでいた子の多さ、英文入力の慣れた手つきなどから、日本の中学1年生より大人びた印象が残った。休み時間の過ごし方、高学年の子達のうろうろしている雰囲気、訪問者の私たちに対する反応の共通点をかなり感じた。

 

英語図書館は、予想以上に刺激的な場所であった。6万冊を超える英語の本や視聴覚教材。英語を学習は、英会話が目標ではなく、知的に豊かな土台となる部分が大切だと理解している人たちの思いを感じた。ずっと英語でのやりとりだったこともあり、ユネスコ学習権の“the right to have access to educational resources”の部分が頭によぎった。本を通じて、英語を学び、文化も学ぶ(イベントや料理などの体験な活動)ことが系統だって計画されていた。英語は目的でなく、手段であり、英語を通しての体験活動でより身近なものへとなっていく過程を大切にしているように思えた。

 

PETGとの懇談会では、韓国の競争教育の中で、悩みながら生徒とかかわり実践を作り上げている先生たちがとても身近に感じられた。日本のように豊かな国がなぜ今更「英語教育」なのか、という質問から韓国の人たちの「国の競争力のために英語力は欠かせない。だから英語力をつけることは大事だ」という発想を肌で感じた。小学校で英語が始まっても、すぐには中学校で英語力の向上を実感できなかったことや今、中学生で英語に興味をもつ生徒はほとんどいないことをきいて、小学校英語が始まる日本で確実に同じことが起きると思った。

 

参加者の中に以前会ったことを覚えていてくれている先生が複数いてとても嬉しかった。日本に来るときに連絡をくれることを約束した。お互い超多忙の中、定期的なやりとりは難しそうだが、教育同じ思いを共有できる教師とまたつながれたことはとても有意義だった。

 

(3) 福井 良子 (JEARN カントリー・コーディネーター)

 

滞在中PETGの先生方にiEARNを紹介するプレゼンテーションの時間とチラシの配布の機会をいただきました。当初はPETGの先生方とiEARN South Koreaとの出会いの場を作り、彼らのサポートでPETGの先生方が海外の先生方と学び合う交流が始まればと思っていましたが、残念ながら、この時期iEARN South Korea代表のJihyunが海外に出張のため彼女をPETGの先生方に紹介することはできませんでした。しかし、PETGの先生たちがiEARNへ興味がわいてiEARNへ参加を希望するのであれば、そのサポートをJihyunに頼んでいます。

 

iEARNとはInternational Education and Resource Networkの略で140か国をメンバーに持つ教育ネットワークです。iEARN JapanJEARN(ジェイアーン)として生徒同士の協働学習を行う先生方のサポートをしています。)

 

私が前回韓国を訪れたのは、2011iEARN South KoreaiEARN JapanであるJEARNが行った日韓高校生交流で高校生たちを引率して以来でした。前回は高校で今回は中学の違いはありましたが、教育税制度の安定した教育財源を背景とした韓国の英語教育の熱心さと充実ぶりはあいかわらずでした。

 

今回印象に残ったのは今彼らが取り組んでいるDifferentiated Teaching and Learning(学習目標は同一で、これを達成するために学習する内容、過程、そして学習の結果物[成果として出てくる作品や発表]を異にする授業)をもとにしたWriting 指導であり、それを英語教員の熱意だけではなく学校全体の協力体制のもとに行われている点でした。日本国内でiEARNの国際協働学習を導入しようとする会員の先生方が直面している困難さ、学校・同僚の先生方の理解と協力を得るまでの孤軍奮闘する先生方の大変さを知っていることもあり、その恵まれた教育体制に羨望とあせりの二つを同時に感じました。

 

釜山市内のEnglish Libraryにも見学に行きそこの職員の方々から説明を受けましたが、驚くほどの数の英語の絵本・本がありました。市内在住ならだれでもそこで常時行われるNativeの先生の英語の授業を無料で受けることができます。その授業のベースはReadingであり、読む力をつけることが確かな英語力を育てるとしていました。まさに私自身が長年の英語指導の中で実感していることであり、これを実際に学校の外で実現していることに羨望と大いなる期待を感じました。

 

すばらしい出会いと貴重な学びを与えてくださった新英語研究会の奈良さんに深く感謝いたします。