ハノイ市ベトナム日本友好協会への手紙
このたび新英語教育研究会・日本ベトナム友好協会東京都連合会のベトナム訪問団のハノイ滞在を機に、この手紙を訪問団に託して、あなたがたにお渡しし、 私達の友好と連帯のあいさつを、心をこめてお送りいたします。
私たち東京都連合会は、去る六月下旬、ハノイ市ベトナム日本友好協会代表団の日本訪問の際、代表団のダオ・タン・フォン団長をはじめ団員のみなさんを東 京でお迎えし、一夜、宴席をともにして親しく交流、懇談いたしました。また、短期間ではありましたが、私たち協会都連役員が代表団を東京都庁、東京大空襲
戦災資料センター、東京の名所・浅草、東京タワーなどをご案内いたしました。
私たちは、こうした交流を通じて、東京とハノイという日本とベトナム両国の首都の友好協会が、今後、協力と連帯をいっそう緊密にしていく必要がある、と いうことをあらためて痛感いたしました。
今回のベトナム訪問団は、ハノイ近郊にある、枯葉剤被害の子供たちの施設・ベトナム友好村をたずね、こどもたちや職員たちと交流、懇談することに、熱い 期待と関心を寄せています。
このベトナム友好村は、ご存知のように、第二次世界大戦に参戦し、二度と戦争は許さない、という決意を持つ五カ国の退役軍人の団体がベトナムの退役軍人 団体と協力して建設されました。私たち日本でも、不戦兵士・市民の会が建設募金運動に参加してきました。私たちは、このような貴重な国際的平和・友好運動
に共鳴し、その一端を担い、若い世代に受け継いでいきたいという願いを持っています。
かつて太平洋戦争の末期、アメリカ政府は、日本軍国主義を最終的に打ち破るため、二つの戦略計画を並行的に進めていました。一つは原子爆弾の投下であ り、もう一つは日本全国の水田への枯葉剤の大量散布でした。日本はベトナムと同じようにコメを主食としています。日本政府は当時、農民を大動員して、コメ
の増産に力を注ぎ、戦力向上をはかっていました。アメリカは、この水田のイネを枯葉剤の大量散布によって絶滅させ、日本を敗北に追いやろう、とねらいまし た。ところが、原爆実験が成功しました。アメリカ政府は、原爆をヒロシマとナガサキに投下し、あの人類最初の大悲劇を引き起こしました。
アメリカの生物化学産業は、枯葉剤の大量生産に費やした開発努力と資金がムダに終わり、原爆投下を選んだ政府をうらみました。
後年、ベトナム侵略戦争で、米軍はベトナムのジャングルと農村地帯に各種の枯葉剤を大量に散布しました。最近の情報によると、アメリカのコロンビア大学 の環境医学研究グループは、五年間の調査の末、ベトナムで使用された各種枯葉剤の量は、これまで推算されている七千万リットルではなく、一億リットルに達
し、三千百八十一の村に散布された、と公表しています。枯葉剤が含むダイオキシンの毒性は、初期に散布されたほど強く、後半のものより約二倍の毒性が検出 されています。
私たちは、アメリカが太平洋戦争で、日本に原爆を落とし、ベトナム戦争で枯葉剤を大量散布した背景には、以上に述べたようないきさつがあったことを、あ らためて世論に訴えたいと思います。
さらに私たちは、最近の日本での憂慮すべき事態をあなたがたにお知らせしなければならないことを残念に思います。
ご存知のように、日本国憲法第九条は、日本は戦争をしない、他国にも戦争をさせないと決めています。これは、世界に誇るべき条項です。ところが、日本政 府は、この条項に背を向けて、戦争をする法律を国会で無理やり押し通しました。さらに、日本の軍隊を海外に送り、米軍の指揮のもとに戦争させる法律も強引 に採択させました。
「平和なくして、友好なし」こそ私達の信念であります。
かつて日本軍国主義政府は、ベトナムに侵略軍を送り、ベトナム全土を日本の南方侵略軍の大食糧倉庫に仕立てようとしました。そのために、あの大量餓死事 件さえ引き起こしました。私は当時、小学生でした。政府が日本の小学生に配ったゴムボールには「仏領印度支那」というハンコが押してありました。教師は私
たちに説明しました。「このボールは日本の兵隊さんがあちらのゴムをとったからできたのです。兵隊さんに感謝の手紙を書きましょう」
それから半世紀を越えてなお、日本政府が「アジアに軍隊を送る」法律をつくる、とは歴史の痛切な教訓にそむく、愚かな行為です。私たちは、ベトナムをは じめ、アジアの人々に銃を向けることを許しません。その決意をこの手紙を通して、改めて表明いたします。
日本から毎年たくさんの観光客がベトナムを訪れ、観光政策に力を入れている貴国ベトナムに国をあげて歓迎されています。
私たち日本ベトナム友好協会東京都連合会は毎年一回か、二回、ベトナム訪問団を送ってきました。それだけに、これからは、単に観光だけでなく、できるだ け機会を設けて、あなた方の友好協会との交流を深めるためにさまざまな企画に工夫を凝らしたいと願っています。あなたがたの訪問団をお迎えする際にも、同 様の努力をはらうつもりです。
どうかその際、あなたがたのご協力を要請いたします。
それでは、今後の一層の友好と連帯の増進をめざして、ともに奮闘しましょう。
2003年8月
日本ベトナム友好協会東京都連合会会長
木谷 八士